第10回 モノとコト 【経営MAGAZINE】

[まくら話]

あるスーパーの店長との会話。

店長「ここ数年バレンタインは手造り志向ですね。それに女子高生でも、ブランド物のチョコを買いますし、なかなか売上に結びつきません」

私「では義理チョコねらいですか？」

店長「義理も選別されているようです。バラマキの時代は終わりました」

私「うーむ、義理も簡単にもらえないとは…」

店長「そこでうちのお店では、モノ（商品）だけでなく、コト（出来事）に焦点を当てた売り場づくりをしています」

私「ほう、コトに焦点を当てたバレンタインの売り場づくりとは？」

[本題]

たとえば売場担当の人がこう言ったとします。

「うちでは鍋物の食材を売っています」

これはモノに焦点を当てた言い方です。

同じ売り場でもコトに焦点を当てるとこうなります。

「うちでは家族だんらんのお手伝いをしています」

商品（モノ）は必ずお客様の暮らし（コト）とともにあります。暮らしが主で商品は従です。

しかし売り手にとってみれば商品（モノ）が主で、その向こうにある暮らし（コト）は従になりがちです。

このスーパーの売り場づくりは、お客様のコトを共有することをねらっています。

バレンタインの時は、チョコレートの特設コーナーにメッセージカードを用意して、お客様はめいめい好きなことを書きこみ、ボードに貼りつけていきます（写真）。

「篤志さんが私のチョコでお腹をこわしませんように」

「彼氏募集中」

「おとうさん、わたしが大きくなったらチョコあげるね」

こうしてチョコレート売場がコトで一杯になりました。

お客様のコトに想像を巡らせ、お客様のコトを売場に引き出し、お客様同士でコトを共有する。

そこには小さな感動が生まれます。

[こぼれ話]

このスーパーで、横長の和紙でできた秀逸なコトＰＯＰを見つけました（写真）。

パートさん達が文案を考え、手作りで制作するそうです。

「寒くなると床板の上に畳が敷かれ、

いろりのふたが開けられ、火が入る。

達じいはますます酒がすすむ。

達じいがこの世で一番好きなものは

お酒やろうね、と子供の頃よく思った。

寒いのでちょっとでも火に近づこうとして

いろりの木のふちに膝を付けたり乗せたりすると、

キセルがビシッととんでくる。

バシッと火ばしがとんでくる。

（中略）

ある時『こればあなことで救急車は呼ばれん…。

おじいがきたないと病院の人もいやじゃろけん』と

風呂に入り、それでもゆったりとかまえて酒を飲む。

それが最後…。

達じいがいなくなってどればあたつろう。

達じいの孫でああ良かった」

このコトＰＯＰの周りに、鍋物などの冬物食材が、やさしく並べられていました。

そう、“やさしく”私には見えました。