ヘッジファンドとは

ヘッジファンド(hedge fund)の正確な定義は難しいが、公募によって一般から広く小口の資金を集めて大規模なファンドを形成することを目指す通常の投資信託と異なり、通常は私募によって機関投資家や富裕層等から私的に大規模な資金を集め、金融派生商品等を活用した様々な手法で運用するファンドのことを指す。代替投資の一つ。

== 概要 ==
投資の最低額が、日本円で1億円以上と高額である場合が多く、ヘッジファンドの参加者はアメリカで99人以下、日本でも49人以下(証券取引法で規定する少人数私募の場合の勧誘数上限。適格機関投資家向け私募投信の場合は、人数制限はない)と少人数に限られる。

募集金額にあらかじめ上限が設定されていることなどから(理由は後述)、資産規模は一般の大型投資信託に比べてあまり大きくはない。一般の投資信託は、投資対象や投資手法などが規制され、情報の開示などが義務付けられているが、ヘッジファンドは一般的に私募による投資信託であるため、同様の規制は受けず自由な運用が可能となっている(当然、四半期や月次ベースでの投資家に対するリポーティングは行われる)。ヘッジファンドはその投資戦略にもよるが、空売りを積極的に利用するものや、金融派生商品へ投資するものも多い。公募の投資信託は機関投資家のみならず、投資に明るくない個人も投資していることから、投資家保護のため、公募型投資信託の運用には様々な法規制がなされており、多くの国では空売りや金融派生商品への投資等に制限がかけられている。このため、多くのヘッジファンドは、公募ではなく私募形式を採用している。

ほとんどのヘッジファンドは絶対的収益の追求を目標としている。「絶対的収益の追求」とは、投資信託等の伝統的な運用形態のほとんどが、東証株価指数|TOPIXやS&P 500等のベンチマークを上回る運用成績を目標としているのに対する言葉である。例えば、不況期の下げ相場の環境では、伝統的資産運用ではマイナス20%の運用実績でも、同じ期間のベンチマークのパフォーマンスがマイナス25%であれば5%ベンチマークをアウトパフォームしたと言い、マイナスの運用実績でも「良好」な運用成績とされる。こうした伝統的な運用形態のパフォーマンス計測に対し、ヘッジファンドは究極的には、不況等のいかなる環境下でもプラスの運用実績を目指すことを目標としている。

また、一部ではケイマン諸島やヴァージン諸島|ブリティッシュバージン諸島等のいわゆるオフショア地域に書類上の本籍を置く一方、運用担当者は東京、ニューヨーク、香港、ロンドン等の金融センターにいることがある(米国のヘッジファンドはニューヨーク近郊のコネチカット州グリニッジにも相当の集積が見られる)。その理由としては法規制が厳しくない地域での運用を求める場合もあるが、実際には海外の投資家向けにアクセスを提供することを目的としているケースが多い(ヘッジファンドに限らず一般の投資信託においても、オフショア地域にファンドの籍を置くケースは多い)。これは海外の投資家からみた場合、オフショア以外の地域に籍をおくファンドではファンド自体で課される税金に加え、投資家の居住国でも課税され、かつ控除が認められない場合が多く、海外の投資家にとっては二重課税となってしまい税務上不利となるためである。ちなみにアメリカのヘッジファンドの大半は、アメリカに籍を置きアメリカで運用をし、かつアメリカの投資家のみにアクセスを提供している。

ヘッジファンドへの投資家は年金基金や退職金基金、銀行、投資顧問等の機関投資家が中心である。日本の年金基金もヘッジファンドをポートフォリオに組み込む動きを強めているが、ヘッジファンドのデューディリジェンスの能力を単独で持ち得る年金基金はあまりないことから、ゲートキーパーと呼ばれるヘッジファンド専門の投資顧問の運用するファンド・オブ・ヘッジファンズ(Fund of Hedge Funds、FoHF)への投資という形態をとっている場合が多い。FoHFは1つのファンドに投資するだけで様々な運用戦略のヘッジファンドへ分散投資する効果が得られる他、有力FoHFの場合は後述の投資家層を非常に絞っており、投資が容易でない人気ファンドへのアクセスを売りにし、単独では投資できないファンドに間接的に投資出来るという効果もある。一方で、FoHFの投資先である個別ファンドとFoHFへ二重に信託報酬を支払うことにもなり、昨今のヘッジファンドの平均リターンがようやくプラスという状況では、信託報酬の分、最終投資家へのリターンが相当圧迫されることになる。

運用成績のいい一部の著名なヘッジファンドはヘッジファンドの側が投資家を選別するという行動を取ることが珍しくなく、新参や一見にはいくら資金があっても投資できないということもある。ヘッジファンドの側が投資家を選別する理由の一部は、ファンド規模に制約を設けるためである。例えば小型株に特化したヘッジファンドの場合、ファンドの規模を流れに任せて拡大させていくと、小型株の流動性の少なさから、自らの投資行動が相場の攪乱要因となり想定したパフォーマンスが出せなくなることを回避しなければならない。

一般の投資信託は空売りが出来ないため、下げ相場では買持ちしている資産の価値が低下し、運用利回りがマイナスとなる場合が多い。空売りを積極的に利用できるヘッジファンドの場合は、上げ相場でも下げ相場でも利益を上げる機会があり、実際に下げ相場を得意とするヘッジファンドもある。

リスクヘッジのために開発された各種の金融派生商品(デリバティブ)を駆使して投機的に高い運用利益を上げようとする投資手法をとる場合もある。デリバティブは原資産の将来の値動きに対するリスクヘッジ手段として開発された物が多く、一般的なデリバティブ取引では満期日における原資産の価格と、デリバティブ契約上の取り決め価格との差額分だけを決済する。このため原資産取引でいう”元本”部分を準備する必要はなく、低額な証拠金(通常は原資産取引元本の3%〜10%程度)を準備するだけで、原資産取引と同規模の取引が可能となっている。このため、実際の投下資金に対しての運用利回りは原資産取引に比べると10倍〜30倍程度も高くなる(レバレッジ)。この様なケースでは、利益だけでなく損失も同様に10〜30倍となり、ハイリスク・ハイリターンな取引となる。

但し、かつてのLTCMの様に、デリバティブのレバレッジ特性を最大限に活用した超レバレッジ型のヘッジファンドはもはや一般的ではない(大半のヘッジファンドではデリバティブを機動的なリスク管理や、高い流動性を維持しながらの現物資産への連動性確保等に使っている)。これは大半のヘッジファンドには主な取引執行相手となるプライムブローカーが存在し、そのプライムブローカー側がLTCMの崩壊以後、ヘッジファンド側のレバレッジ上限を規制する等リスク管理を強化する様になったことにも拠る。

== 投資手法 ==

ヘッジファンドの採用する投資戦略は多岐に渡るが、よく知られるものとして以下の戦略がある。

*ロング・ショート
*アービトラージ
*マーケット・タイミング
*レラティブ・バリュー
*イベント・ドリブン
*マーケット・ニュートラル
*グローバル・マクロ

<以下はヘッジファンドとしてではなく、オルタナティブ投資の種類として語られることが多い>
*マネージド・フューチャーズ
*プライベート・エクイティ

=== ロング・ショート ===
現在のヘッジファンドでもっとも運用残高の多い投資戦略である。

ロング・ショートという名前からもわかるように、株式等の有価証券のロング(買い持ち)とショート(売り持ち)の双方のポジションを同時に取るものである。アナリストあるいはファンドマネージャーが割安、つまり過小評価されていると判断した銘柄については一般的な投資信託と同じく買い(ロング)のポジションを取り、逆に割高、つまり過大評価されていると判断した銘柄については売り(ショート)のポジションを取る。

不況等の相場全体が下げの環境下では積極的に空売りを仕掛けることで、絶対的な収益を生み出すことが可能になる。逆に、好況期の相場全体が上げの環境下では、相場全体について行けずインデックス以下もしくはマイナスの運用実績しか上げられず苦戦しているファンドも多い。マイナスの運用成績は問題であるが、そもそもヘッジファンドの本質は相場環境にかかわらず長期的に安定的にプラスのリターンを達成し続けることにあるので、好況期にインデックスに対して勝った負けたと議論するのはナンセンスであるとの論もある。

また、売りと買いの両方を仕掛けているので、相場全体の動きがどちらに進んでも、片方の玉がヘッジ(保険つなぎ)となり、損失は最小になるとの考えも有り、ヘッジファンドの名前はこの点に由来する。しかし、買建て玉が下がり、売建て玉が上がる場合も当然あり得るので、このような状況が生じると莫大な損失を出す可能性を秘めている。同方式は、思惑売買を売り買い両面で仕掛けているにすぎず、売建て玉と買建て玉の価格連動性も考慮していないので、本来の意味でのヘッジにはなっていない。このような売買手法に対して、ヘッジファンドという名称を付けたのは、一種の誤解に基づくものと言えよう。ただし、売建て玉を利用できる点については相場技法上、多大のメリット(特に短期売買の場合には顕著)があることは事実である。近年では、売立て玉と買建て玉の価格連動性を考慮した方式がとられる場合も多い。

近年、このロング・ショートの手法を採用した一般個人投資家向けの投資信託も出現している。

なお、株式ロング・ショートのヘッジファンドには、特定の業種・セクターに絞った運用をするものが多い。一般的な株式投資信託では広範な業種の銘柄を買いつつ、その銘柄選択効果でTOPIX等の市場インデックスを上回ることを追求するのに対し、ロング・ショートでは買い・売り双方の機会を求め、特定業種・セクターにおけるより徹底したボトムアップ調査を基に運用することに起因する。このため多くの株式ロング・ショートヘッジファンドの運用成績は、その専門分野におけるボトムアップ調査・運用能力に比例すると考えられる。なお、経験測では多くのロング・ショートファンドにおいてネット・ロング(買いポジション>売りポジション)の状態にいるケースが多いことが確認されている。

=== アービトラージ ===
上記の原始的なヘッジファンドの次に誕生したのが、いわゆる鞘取りで利益を稼ぎ出す売買手法を取るものである。最もよく知られているのは、裁定取引(アービトラージ)を利用したものであろう。同一の取引銘柄が、複数の市場に上場されている場合、同じ銘柄であるにもかかわらず、価格に乖離が生じることがある。

この場合、一時的にバイアスがかかっても、長期的には必ず乖離が修正されるので、高いほうを売って、安いほうを買っておき、乖離が修正された時点で反対売買を行えば、安全かつ確実に利益を出すことが出来る。また、市場間のバイアスを利用した取引であるため、上げ下げには依存せず相場に動きが無い局面でも利益を生み出せる。

ただし、裁定取引での投下資金に対する利益は1/1000〜1/10000程度(0.1〜0.01%)と極めて微小なものとなる。このため、レバレッジ比率と売買頻度を高めなければ、高い利回りは望めない。一般的にヘッジファンドのレバレッジ比率は、3〜5倍程度といわれている。

=== マーケット・タイミング ===
マーケット・タイミングは伝統的なロング・オンリー運用と異なり、ロング(買い)ポジションに入るタイミングを見計らいながら、それまでは主に現金や短期金融資産等で安全運用を行う戦略である。一般的には株式相場全体の上昇基調入りを見計らいながら、下げ相場では現金運用を行い上昇期にはインデックス運用を行うタイプが多い。トップダウン型の一種であり、金融政策や財政、主要な経済指標等を分析しマクロ経済のサイクルを見計らうアプローチが取られる。

マーケット・タイミングはその特性上、一般的な株式投資信託よりもリスクが低い運用手法と考えられる。

=== レラティブ・バリュー ===
上述の裁定取引(アービトラージュ)と混同して議論されることが多いが、レラティブバリューは広義では相対的な割安・割高を収益機会と捉える手法である。裁定取引は厳密には市場における完全なミスプライス(全く同じ経済効果をもたらす複数の資産やポートフォリオの間で異なる価格が存在している状態)を収益機会と捉えるのに対し、レラティブ・バリューではあくまで相対的な割安・割高をもって収益機会と捉える点で異なる(なお、実運用においては完全なミスプライス状態はそうそう頻出するものではないため、ほぼ完全なミスプライス状態をもって裁定機会と捉えるアービトラージャーが多い)。

LTCMの運用手法は裁定取引型と表現されるケースもあるが、むしろレラティブバリュー型の方が実態に近かったと考えられる。

=== イベント・ドリブン ===
イベント・ドリブン型は、主に企業の買収・合併等のイベント発生時における市場でのミスプライスを収益機会と捉える手法である。例えばある企業同士の合併が公表されてから、実際に合併が成立するまでの間に発生する各企業の株価の差異を、合併成立に伴って収斂するものと考えてポジションを構築する。かかるイベントが正確に市場価格に反映されるまでにタイムラグが存在することで収益機会が生まれるものである。

但し、リスクとして合併が不成立となるケース等があり、その場合には大きな損失を発生しかねない運用手法でもある。

=== マーケット・ニュートラル ===
マーケット・ニュートラル(市場中立型)とは、その名の通り市場に対して中立なポジションを取る運用手法である。例えば一般的な株式投資信託では株式市場全体の動き(TOPIX等)をベンチマークと置き、そのベンチマークに対するポートフォリオの感応度をベータ、ベンチマークの動きに関わらず生じる収益をアルファと表現するが、ここでいうベータのリスクを排除した運用手法とも言える。

マーケットニュートラルでは市場全体の値動きに左右されず、銘柄選定効果(アルファ)のみを積み上げていくリターン特性を持つため、ヘッジファンドの中で最もリスクが低く安定した運用手法の一つである。また、伝統的な資産クラスとの相関が低いため、既存の伝統的ポートフォリオに追加した際に得られる分散効果が最も高いとも言われている。

=== グローバル・マクロ ===
グローバル・マクロは実質的には特定の運用手法を指すものではなく、多種多様な市場において多種多様な資産を多種多様な手法で運用するファンドの総称である。その多くが、世界のマクロ経済動向見通しをベースにしたトップダウンアプローチに基づき、世界各市場で多種多様なポジションを張っている。有名なものではジョージ・ソロスのクオンタムファンド等がこの分類に入る。一時期はヘッジファンド=グローバルマクロというようなイメージで語られることもあったが、機関投資家側のヘッジファンドに対するニーズが具体化・特定化している現在においては主要な地位を占める戦略ではなくなっている。

=== マネージド・フューチャーズ ===
主に商品先物に投資する運用手法。カテゴリーとしてはヘッジファンドではなくコモディティ投資とする見解が多く、広義ではオルタナティブ投資の一つである。元来は商品に限らず各種金融資産、通貨等も含めた先物全体を活用した運用手法と定義されていたが、専ら商品先物に投資する運用を指している。投資対象の定義を除けば、ロング・ショート・タイミング等の具体的な戦略を特定するものではない。

=== プライベート・エクイティ ===
未上場企業に投資するベンチャー・キャピタルや、企業の買収〜再生〜売却を通じて収益を上げるバイアウト・ファンド等の総称。一投資家に過ぎない一般的な株式投資と異なり、大株主として企業の経営に対しより直接的な関与をしながら最終的にIPO等を目指す。その特性から、中長期的な投資が多く流動性も低い投資手法である。


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レバレッジなど利益を最大化する手法を自由に使って運営される。しばしば、ヘッジと呼ばれる手法を大規模に使うので、ヘッジファンド と呼ばれる。

ヘッジ自体はリスクを避けるための一般的な手法で、通常の投資信託でも為替ヘッジを使用するので、ヘッジを使ったからといってヘッジファンド と言うわけではない。

したがってヘッジファンドと呼ぶより私募ファンドと呼んだほうが適切である。ただし、最近では高度なストラクチャリングによりレバレッジの規制(ファンドレベルで10%超のレバレッジ水準とならないこと等)により公募の形式でも販売されることがある。


「ヘッジ」とは「(リスクを)支える」、「ファンド」とは「資本」を意味し、損失の危険の高い小規模資本による投資ではなく、顧客から集めた資金を合わせて超大規模資本を形成し、様々な専門知識や金融技術を駆使して、リスクを抑えて高い利益を出している。その主な手法は、購入した財を担保に入れて融資を受け、その資金で購入した財をさらに担保に入れて融資を受ける…といった多重抵当設定によって(無論、信用と実績のある投資会社でなければ銀行は多重抵当を認めないが)、実資本の数十倍の外国為替・金融先物等の取引を行い、高い利益を挙げる。これらは総称してデリバティヴ(金融派生商品)と呼ばれる。

出典:フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 GNU Free Documentation License.

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