官僚制とは

官僚制(かんりょうせい)は、比較的規模の大きい社会集団や組織 (社会科学)|組織における管理・支配のシステムである。一般に官僚制という場合は、「近代官僚制」のことを指す。



== 官僚制の特徴 ==

官僚制の「官僚」という言葉のイメージから、国家および行政機構に特徴的なシステムと思われがちだが、政党などの政治団体の他、企業、労働組合、福祉団体、非政府組織|NGO(非政府組織)などの民間団体にも見られるヒエラルキー(位階、階層)構造を持ったシステムである。

基本的な特徴としては、以下の点が挙げられる。

*形式的で恒常的な規則に基づいて運営される。
*上意下達の指揮命令系統を持つ。
*一定の資格・資質を持った者を採用し、組織への貢献度に応じて地位、報償が与えられる。
*職務が専門的に分化され、各セクションが協力して組織を運営していく分業の形態をとる。

== 官僚制の研究 ==

官僚制についての本格的な研究は、マックス・ヴェーバーに始まる。ヴェーバーは、近代社会における特徴的な合理的支配システムとしての近代官僚制に着目し、その特質を詳細に分析した(上に記した官僚制の基本的な特徴もヴェーバーの定義に基づいている)。

===ヴェーバーによって指摘された合理的組織としての官僚制の特徴===
近代官僚制は、前近代に見られる家父長制的な支配に基づく家産型官僚制(中世の家臣団や中国の科挙官僚などが典型的な例)とは異なり、組織を構成する人間の関係は、能率を重視する非人格的(非人間的ではない)な結びつきによって成り立っているとされる。つまり、血縁によるつながりや感情的な結びつきなどではなく、合理的な規則に基づいて体系的に配分された役割にしたがって人間の関係が形成されているということである。なお近代官僚制は、以下のような特質を備えていることがヴェーバーによって指摘されている。

*権限の原則
*階層の原則
*専門性の原則
*文書主義

ヴェーバーは、近代官僚制のもつ合理的機能を強調し、特に機能障害については論じておらず、官僚制は優れた機械のような技術的卓越性があると主張した。ただし、官僚制支配の浸透によって個人の自由が抑圧される可能性や、官僚組織の巨大化によって統制が困難になっていくといった、近代官僚制のマイナス面について予見している点は見落としてはならない。

===マートンによって明らかにされた官僚制の逆機能===
ヴェーバーが詳しく言及しなかった近代官僚制のマイナス面については、ロバート・キング・マートン、アーヴィン・グールドナー、フィリップ・セルズニック、ハロルド・ラズウェルなどのアメリカの社会学者・政治学者たちの官僚制組織の詳細な研究によって明らかにされた。

なかでも、マートンによる官僚制の逆機能についての指摘は有名である。

*規則万能(例:規則に無いから出来ないという杓子定規の対応)
*責任回避・自己保身
*秘密主義
*画一的傾向
*権威主義的傾向(例:役所窓口などでの冷淡で横柄な対応)
*繁文縟礼(はんぶんじょくれい)(例:膨大な処理済文書の保管を専門とする部署が存在すること)
*セクショナリズム(例:縦割り政治や専門外の業務を避けようとするなどの閉鎖的傾向)

これらは、一般に官僚主義と呼ばれているものである。例えば、先例がないからという理由で新しいことを回避しようとしたり、規則に示されていないから、上司に聞かなければわからないといったようなものから、書類を作り、保存すること自体が仕事と化してしまい、その書類が本当に必要であるかどうかは考慮されない(繁文縟礼)、自分たちの業務・専門以外のことやろうとせず、自分たちの領域に別の部署のものが関わってくるとそれを排除しようとする(セクショナリズム)、というような傾向を指し示している。

===辻清明による日本の官僚制研究===

政治学者・行政学者である辻清明_(政治学者)|辻清明は、明治時代以来の日本における官僚制機構の特質を研究し、その構造的特質の一つとして「強圧抑制の循環」という見解を表明した。

彼は「新版日本官僚制の研究」(1969)にて、戦前において確立された日本の官僚制は特権的なエリートによる構造的な支配、すなわち支配・服従の関係が組織の中核を成しており、さらに組織外の一般国民にまでその構造が拡大されている状況を指摘した。つまり、組織内部において部下が上司の命令に服従するのと同様に、日本社会では軍人・官僚への国民(臣民)の服従を強要する「官尊民卑」の権威主義的傾向を有していたとする説である。

さらに辻清明は、この社会的特質は戦後の民主化改革の中でも根強く生き残り、政治的な民主化への阻害要因になっているともしている。この「強圧抑制の循環」という見解は、日本の官僚が政治家よりも大きな政策決定への影響力を有するという前提に立つものである<ref>しかし、このような見解に対しては、村松岐夫より、戦後の日本政治は官僚による支配というよりも自由民主党による政治主導の下で統治が行われているとの批判もある。しかし、自由民主党も政策決定において官僚に依存しているところから、政治家主導による統治が行われているとする主張にも疑問が提起されている</ref>。

=== パーキンソンの法則 ===

この他にも、イギリスの歴史学者・政治学者であるシリル・ノースコート・パーキンソンによる指摘もよく知られている。パーキンソンによる官僚組織の非合理性についての指摘は「パーキンソンの法則」<ref>パーキンソンの法則は、単なる官僚組織の非合理だけを指摘したものではない。例えば、議会における傾向の一つとして、演説や法案の修正などに多くの時間を費やしているが、これは単なる時間の浪費であって、実際には議会の中間派の票を獲得することが議決に大きく作用する(中間派の理論)という指摘もされている。パーキンソン(森永晴彦訳)『パーキンソンの法則』(至誠堂)P.39-40</ref>と呼ばれている。これは、実際にこなさなければならない仕事量に関係なく、官僚の数はどんどん増え続けていくというもので、官僚組織の肥大化の特質を示している(成長の法則)。もちろん官僚が増えれば、その分仕事がなければならないが、それは実際に必要ではない仕事を創造することでまかなわれる。つまり、無駄な仕事ばかりが増えていくということである(凡俗の法則)。

これらのことは、官僚自体が膨大なエネルギーを費やして官僚組織の維持に努めていること、そして、なによりも政治家が官僚に依存している状況において、官僚組織を統制するための制度としての「民主主義」が十分に整備されていなかったことの表れである。つまり、組織管理の体系として民主主義制度は官僚制に勝るものとして十分に確立されていないということ指し示しているのである。

== 参考文献 ==
*マックス・ヴェーバー『支配の社会学 1』世良晃志郎訳(創文社)
*マックス・ヴェーバー『支配の社会学 2』世良晃志郎訳(創文社)
*ロバート・K・マートン『社会理論と社会構造』森東吾他訳(みすず書房)
*シリル・ノースコート・パーキンソン『パーキンソンの法則』森永晴彦訳(至誠堂選書・至誠堂)
*辻清明『日本官僚制の研究(新版)』(東京大学出版会)
*村松岐夫『戦後日本の官僚制』(東洋経済新報社)
*西尾勝『行政学(新版)』(有斐閣)

==用 語==
;代表的官僚制
:行政官僚制の職員構成に、社会の構成を反映させる制度

出典:フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 GNU Free Documentation License.

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