業務中の事故と損害賠償の規定方法
労働者が業務遂行中に事故を起こし、損害が発生した場合、会社は民法715条の「使用者責任」を免れることはできないというのが過去の裁判例です。労働 者に重大な過失があるとされた事案(丸山宝飾事件/東京地判平6.9.7)でも、裁判所は使用者責任として損害額の50%を会社に負担させる判決を下して います。裁判となった事例では、労働者の過失の度合に応じて、会社は損害の6〜8割を負担すべきとしているものが多くなっています。
業務を遂行するにあたって通常求められる注意義務を尽くしていれば、労働者に損害賠償義務はなく、故意や過失があった場合にはじめて会社の損害賠償請求 権が発生すると考えるべきです。労働者の過失が認められた場合でも、業務の内容や労働条件、役職等により労働者が支払うべき額を総合的に判断する必要があ り、損害額全額を労働者に負担させることは難しいでしょう。「運転中の事故によって生じた損害については従業員の負担とする。」というような規定では、従 業員から「使用者責任を果たしていない。」と負担の減額を要求される可能性が高くなります。就業規則等で損害賠償について規定する場合は、「損害額(また は保険の免責額)の一部について従業員に求償することがある。」という程度にとどめ、個別の事案に応じてそのつど対応する方がいいでしょう。また求償する 場合でも、一方的に給与から天引きすることは労働基準法違反になりますので、本人の同意を得て控除するか、いったん給与全額を支払った後で改めて従業員の 負担分を支払ってもらう方式にしなければなりません。
事故の場合の損害賠償請求とは異なり、スピード違反・駐車違反などの反則金については、たとえ業務遂行中の違反であっても、「会社が反則金を負担す る。」と定めることは問題があります。道路交通法違反などで運転者が科される反則金を会社が負担することは、法令違反を助長するものと考えられますので、このような規定を設けても、公序良俗に反し無効と判断され る可能性が大きいでしょう。しかしながら、「荷物の積み下ろしの関係で駐車違反をしてしまった。」「得意先との約束時間に遅れそうになってスピードを出し 過ぎた。」など、労働者に全面的に責任を負わせることが難しいケースもあります。反則金の支払いについても、具体的な損失補填割合などは定めずに個別に対 応する方が無難ではないでしょうか。
なお、反則金・罰科金などを会社が支払った場合、税務上も損金算入が認められない取扱いとなっています。
ビジネスコラム提供者情報

- 士業:社会保険労務士
- 三協社労士行政書士事務所
- 東京都府中市寿町3-3-2-1F
(プロフィール) 所長 田中 龍司(たなか りゅうじ) 1973年7月3日生 出身地 兵庫県伊丹市 趣味 サッカー、野球 略歴 平成 8年大学卒業後、マンションデベロッパーにて企画営業を担当 平成16年建設会社にて相続税対策及び賃貸マンシ …
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